【感想/恋愛小説】『美丘/石田衣良』読み終わったあと彼女に会いたくなりました。

美しい丘と書いて「美丘」。

このタイトルと表紙を見たとき、「石田衣良は『sex』のようないい感じの恋愛小説ばかりだな!!!おい!」と軽い感じで手に取りました。別にタイトルはいやらしくないですが、表紙は男女が裸で抱き合う様でなんともいやらしい。

でも、読むごとに、ページを追うごとに、その世界観は、その話は、美丘という一人の女性と太一という一人の男性の恋愛に引きずり込まれました。

『美丘』のあらすじ

美丘と太一の出会いは、大学の屋上だった。

美丘という名前とは対照的で、まるで嵐のような性格の美丘。最初はちょっと変わった女性くらいにしか思っていなかった太一は、徐々にその女性に心を奪われていく。身近にいる綺麗で、頭も良くて、スタイルのよい女性ではなく、ちょっとトゲのある、アクの強い女性に魅かれていく太一。

二人は付き合うようになり、やがて体を交わすことになる。その後、美丘の口から発せられて言葉に、太一は動揺を隠せなかった…。

美丘は、かつて事故に遭い、その際手術によってヤコブ病という脳がスカスカになる病気に感染した可能性を示唆したのだった。もちろん、発症する可能性は100%ではない。ただ、発症すれば数ヶ月から数年で歩行や言葉を発することが困難になり、やがて死に向かう。

その事実を知った太一は美丘と付き合うことをやめなかった。美丘の生きた証を残すために、そして美丘から託された約束を果たすために。

死が目の前に迫った美丘を目にした太一。どこか自分を隠してきた一人の大学生が、最愛の人の言葉で背中を押され…。

感想

感動しました。

ただ、徐々に感動したという方が適切かもしれません。前半の男女6人の絡みの部分と、後半の太一と美丘が付き合ってからの部分でかなり受け取ったイメージが違いました。後半に入り、徐々に涙がこらえきれなくなります。

前半は、美丘と太一、そして他4人の男女6人の絡み合いが、どこにでもいる大学生の日常として、面白おかしく上手に描かれていました。みんながみんなこんな大学生活を送れているわけではないだろうけど、少なくともこんな学生はどこの大学にもいるよなーって感じの大学生6人が描かれている様には、なんだかホッとします。あんまり行動的な6人ではないものの、6人ともがまったく違う性格で、個性的ではないにしても、どんな会話であれ面白く描けるのは、人物設定の上手さだよなーと思います。

後半に差し掛かり、美丘と太一が付き合いはじめ、体を交え、美丘の真実を伝えられてからは、急ピッチで話が展開していきました。この当たりから美丘と太一以外の4人はほとんど出てこず、美丘と太一だけの話になります。二人の距離感、考え方、生き方が、シンプルながらも奥深くて、どこにでもいるカップルだけど、美丘の状況でちょっと違ったカップルになっているのもまた面白かったです。

そして、ゆっくりだけど季節の移り変わりが、着実に最期へと向かうようになるいつれて、読む行為を止めることができなくなりました。季節の移り変わり方やページ数は、前半と後半で同じなんですが、ページをめくるスピードがかなり変わるのも、上手く演出しているからかもしれません。6人だからこその表面的な日常と、2人だからこその濃厚だけど、差し迫る、鬼気迫る感じがページをどんどんめくらせました。

最後、美丘が死に向かいながらも、最期の姿まで語らなかったのはそこを多くの人に考えて欲しい、感じて欲しいと思う石田衣良の想いなんだろうと思います。最期に死ぬ姿を描いても、たぶん上手く描けなかったのかもしれませんが、ここは読者のイメージ、考えに任せたい、思いに浸って欲しいという願いなんじゃないかと思います。

また、セックスに対する考え方や見方がどんどん変わっていくことも面白い視点だと思いましたね。

前半は、セックスはイメージとして軽いものとして扱われている感じなんですが、美丘のことがわかり、弱っていくにつれて、セックスが高尚なこと、人と人とが愛情を注ぎ合うこととして素晴らしいことになっていく感じがしました。

この辺りは石田衣良の上手さだよなーと感じざるを得ませんね。前回読んだ『sex』もそうだったんですが、セックスを語らせたらこの人は日本人作家でもトップクラスだろうと思います。

一人の人間が、好きな人と体を交わすことの高尚さは、現代人にはちょっと受け入れづらい概念かもしれません。好きな人と深く熱いセックスではなく、風俗やセックスフレンドみたいな軽いセックスを好む現代人にこそ、この『美丘』でセックスの高尚さを体感した欲しいなーと思いますね。

実写版もあるみたいだけど、想像に留めたい

実は、『美丘』は実写化されているみたいです。

キャストをみたとき、「あ、ちょっと違うな…」って思ったのでみるのはやめました。

キャストもそうなんですが、個人的にはこの作品は想像の中で完結したいという思いが強いです。文脈から、文章からしかできない小説の良さとしての想像。映像になってしまうとその想像をすべて刈り取られてしまう感じが、あまり好きではありません。

そういった意味でも実写版は見ず、僕の心の中で美丘と太一の姿を留めておこうと思います。

あとがき

もし、自分の彼女が美丘と同じ状況、近い状況なら自分はどうしただろう?彼女はどうしただろう?と少し考えながら読みました。

もう、生きている時間もそれほどなく、弱っていく姿を見ないといけない。

おそらく別れることはないだろうと思います。彼女の弱っていく様は、たしかに辛いですが、これまでの僕への彼女からの愛情を考えれば、僕も最期くらいはしっかり愛情を注いであげようと。どんな姿になれ、何かができなくなれ、彼女はそこにいて今を生きていると考えれば、軽々しく見放せないですし、見捨てることはできません。

一番辛いのは彼女だと思えば、僕にできることは側にいて、一緒にいてあげることなんじゃないかと思います。

すべての男が太一と同じような行動、思考をするとは限りませんが、僕はおそらく同じ、いや同じような行動を取り、彼女との最期の時間を迎えるだろうと思います。

美しい丘とは、ほど遠い女性『美丘』。最高の恋愛小説でした。

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