恩田陸さんの『夜のピクニック』を読みました。
作品自体はずっと前から知っていて、「いつか読みたいなー」と思ってはいたものの、なんだかんだで読む機会を逃していました。恩田陸さんが直木賞を受賞したということで、新作を読む前に、なんとか『夜のピクニック』だけは読もうと、読む時間を無理やり作って読むことにしました!
なんとなくタイトルから想像していた内容とは違っていたんですが、かなり面白かったです!
『夜のピクニック』あらすじ
夜を徹して八十キロを歩き通すという、高校生活最後の一大イベント「歩行祭」。生徒たちは、親しい友人とよもやま話をしたり、想い人への気持ちを打ち明け合ったりして一夜を過ごす。そんななか、貴子は一つの賭けを胸に秘めていた。三年間わだかまった想いを清算するために―。今まで誰にも話したことのない、とある秘密。折しも、行事の直前にはアメリカへ転校したかつてのクラスメイトから、奇妙な葉書が舞い込んでいた。去来する思い出、予期せぬ闖入者、積み重なる疲労。気ばかり焦り、何もできないままゴールは迫る―。
(引用 『夜のピクニック (新潮文庫)』)
主人公は、西脇融(にしわきとおる)と甲田貴子(こうだたかこ)。この二人にはある関係がある…。その関係が故に、これまで関わることを避けていた二人。しかし、歩行祭で貴子が秘めた一つの賭けによって、二人の関係は一気に縮まることに…。
果たして、融と貴子の関係はどうなるのか…?
そして、融と貴子は無事歩行祭を終えることができるのか…?
感想〜シンプルな設定だからこそ面白い〜
『夜通し歩くだけ』たっだこれだけの設定にも関わらず、この歩行祭を通して繰り広げられる、明らかになる一人一人の人間像や歴史が実に面白く描かれた作品だったと思います。
普段は明るい時間帯しか関わることがない人通しが、夜に顔を合わせるのってそれだけでも稀な経験であり、どこかワクワクする経験ですよね。それは今回の舞台になってる歩行祭だけじゃなくて、修学旅行もそうだし、卒業旅行や誰かの家での泊まりでもそうかもしれません。
普段関わらない時間帯に関わるからこそ、変なテンションが普段できない会話を可能にすることって誰にでもあります。修学旅行のときの「好きな子だれ?」みたいな話がその最たる例ですよね(笑)普段なら絶対に話さないその好きな人の名前を、なぜか修学旅行のときの布団の中だと話してしまう不思議。これは経験してみないとわからないことかもしれません。
今回の舞台にもなっている歩行祭の面白い点は、もう一つあると思っています。それが一緒に苦痛を分ちあるってことです。一緒に辛いことを経験することで、そこには強い信頼が生まれるんですよね。まぁ信頼があるから、一緒に苦しみを分かち合えるのかもしれませんが。
ただ、一緒に何か苦しみを味わうからこそ、何かわかり合えることがあるし、踏み出せる一歩があるんですよね。それは、今作で貴子が融に対して賭けていたことも同様だと思います。つまり、みんなが同じく苦労をしているからこそ、これまで踏み出せなかった一歩を踏み出すことができ、超えられなかったハードルを超えることができたってことです。まぁ勢いともいえますよね。
文化祭前にみんなで四苦八苦しているからこそ、文化祭を通してカップルが増えるってのとやや似ている感じがします。近くで苦労をともにするからこそ、そこに親近感がわいたり、周りからのあと押しがあったりして、関係が急接近する。それを文化祭でもなく、体育祭でもなく、修学旅行でもなく、歩行祭という辛い経験の中で生み出したのがこの作品のような感じがします。
歩行祭自体は、高校生のイベントとして終るものの、そこで得た経験を通して、融や貴子は新しい人生を歩みはじめる。歩行祭自体が、どこか人生の起点、岐路になっている点も面白かったと思います。
すべての高校生に読んで欲しい
この本に限らずですが、この『夜のピクニック』は特に高校生の人には読んで欲しいです。僕ももっと早くに出会っておけば、今もっと充実した人生が歩めていたんじゃないかと思うくらいなので、ぜひ読んで欲しいですね。
なんで、高校生かっていうと、主人公が高校生だからです。特に、どこにでもいるようなありふれた高校生を主人公にして、どこにでもある高校生の悩みや思いを上手く描いている作品だからです。
高校生って人生の中でも特に悩みが多く、辛い時期だと思います。だからこそ、そんな自分は変じゃない、普通だということを再認識して欲しいし、悩みがあっても強く生きていこうって気持ちを持って欲しいです。
悩みがあることが悪いことなんじゃなくて、悩みを抱え込むことが悪いこと。悩みは、誰かに打ち明けて、共有して、乗り越えていけばいいんじゃないか!って思うんですよね。なので、ぜひ、高校生のうちにこの作品を読んでみて欲しいです!
あとがき
どんなことにも手遅れというのもはないと思っている性分ですが、この小説に関してはやや手遅れ感を感じざるを得ませんでした。それくらい高校生のときに読みたかったと思わせる作品でした。何がそう思わせるのか?というと、おそらく登場人物のリアルさだろうと思います。考えていること、行動することがことごとくリアル。
高校生という不安定な時期だからこそ、こういったどこかリアルな話は読む必要があるんじゃないかと思っています。そういった小説に出会うことで、今の自分に安心を感じることができるんじゃないかと。
高校生って妙に100%を求め勝ちで、それが故に脆くもある。だからこそ、少しでも安心できる要因があるのって必要なことだと思っています。まぁもちろん大人でも脆さはありますが、よりどころの多さでは高校生の方が不安定。なので、ぜひ、多くの高校生に読んで欲しいですし、この小説をきっかけに何か考えて欲しいなーと思いました。