【感想/小説】エルサレム賞『夢宮殿/著:イスマイル・カダレ』初めて海外文学に触れてみて

エルサレム賞という文学賞も、カダレという作家の名前もこれまでまったく知りもしませんでした。

文学賞なんて、日本の芥川賞や直木賞、本屋大賞や江戸川乱歩賞などのような日本の賞とノーベル文学賞くらいしか知りませんでした。

でも、一冊の本との出会いをきっかけに、僕は海外文学、海外の文学賞、海外の小説家と触れる機会を得ました。

【感想/文学賞】まだ見ぬ名作を求めて『世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今』

今回読んだ『夢宮殿』という小説はアルバニアを舞台にした話です。なんとも不思議な感覚で最後まで読むことができました。

あらすじ

その迷宮のような構造を持つ建物の中に、選別室、解釈室、筆生室、監禁室、文書保存室等々がドアを閉ざして並んでいた。
<夢宮殿>、国中の臣民の見た夢を集め、分類し、解釈し、国家の存亡に関わる深い意味を持つ夢を選び出す機関。名門出の青年マルク=アレムは、おびただしい数の様々な夢の集まる機関に、職を得、驚きと畏れに戸惑いながらも、しだいにその歯車に組み込まれ、地位を上りつめていく。国家が個人の無意識の世界にまで管理の手をのばす恐るべき世界!

(引用『夢宮殿』見開き

見開きに書いてあるので、おそらくこれがあらすじなんだと思うんですが、個人的にこれはあくまで設定じゃないかと思います。

『世界の8大文学賞』を読んでもわかりますが、あらすじを書くのが非常に難しい作品です。

設定自体は、比較的シンプルなんですが、そこにまつわる様々な家庭の事情や歴史、人間関係の複雑さと深さがあらすじを書けなくしている要因かと思います。

感想

不思議な感覚で読める面白い作品でした。

海外作品の中でもこの本を読もうと思ったのは、夢を扱った作品だったからなんですが、その夢の扱われ方が現実的であり、非現実的であるという点が非常に面白かったです。妙に設定が現実的であるが故に、ホントにこんな世界がどこかにあるんじゃないか?と思わせるリアリティがありました。

国家を揺るがす意味を持つ個人の夢を選び出して、分析するなんて、現実にはあり得ません。みんなが同じ夢を見て、「もしかしたら国家が危ないかもしれない…」ならまぁなくはないですが、たった一人の個人の夢が国家の存亡に関わるなんて考えられないですよね。

でも、そのありえないような世界にリアリティを持たせているのが、マルク=アレムが就職した機関「夢宮殿」の設定。仕事が与えられ、人によっては仕事が変わり、地位が上がれば仕事も増え、部署によっては残業もある。外部には漏らせない秘密もあり、会社の中と外では世界が別に感じる。1800年代の社会としてはちょっと似つかわしいですが、現代には普通にある会社のような設定が妙にリアリティを感じさせるところがなんとも面白い。

そして、これは『世界の8大文学賞』にも書いてある話なんでが、個人の夢が国家の存亡に関わるって、現代でいえば個人の発言、たとえばTwitterやブログでのちょっとした発言が、国の政治や企業の方針を変えさせるってことと同じなんですよね。夢宮殿に持ち込まれる夢も、実際に見た夢もある一方で、創作した夢も紛れ込んでいることを考えると、国家の存亡を個人の夢(思想・思考)に頼ることってなんとなく怖さを感じます。

最後の最後まで何がこの作品で伝えたかったことなのかわからずに読み進めていました。もちろん中身は面白くて、どんどんと読み進めて行けるんですが、「この作品は何が言いたいんだろ…?」とずっと疑問でした。

でも、最後の最後に腑に落ちました。

それは何かに没頭すること、どこかの世界(会社や趣味など)に浸ることは、それまでの世界に戻れなくなるということ。今回の「夢宮殿」でいえば、夢宮殿という特殊な仕事に就いたためにマルク=アレムは、それまでいた現実の世界に戻れなくなった。

現実の話をすれば、お金がなかった時代に感じていた幸せは、お金を持つことで失われるという感じの話です。お金がないからこそ味わうことができた経験は、お金を得ることでできなくなるんですよね。それはお金を持つことでその経験を得るまでの時間や思考を削ぎ落としてしまうからです。まぁこんなことをカダレが伝えたかったのかはわかりませんが、僕にはこんな感じで腑に落ちました。

初めて海外文学に触れてみて

これまでも「星の王子さま」や「アルケミスト」のような短編小説は読んでいました。でも、今回初めて長編の海外文学を読みました。

そこで感じたのは、日本文学とはやっぱり違うなーということでした。

まぁいわれなくても、読まなくてもわかることなんですが、読んでみてちゃんと実感することができました。日本の文学と海外文学が違うのは、言葉のこともそうですが、その背景にある文化や文明、歴史が違うからなんですよね。だからなのか、文章構造も違ったり、話の口調や国・企業の制度の違いを感じました。

日本人なので日本の文学の流れに慣れていた分、海外文学は新鮮で、かなり面白かったです。

あとがき

『夢宮殿』はかなり難解で読むのに苦しむ作品だと思っていたんですが、予想以上に面白く、また読みやすい作品でした。

海外文学って、本の文学と違ってあんまり紹介されないですし、あんまり読んでる人も多くないので、これまで読む機会、触れる機会、知る機会がなかったんですが、比較的若い段階で知れてよかったと今更ながら思います。

日本の文学もたしかに面白いですが、パターンが決まった感じがして、たまに飽きてしまいまうんですよね。その点、海外なら国の数だけ面白さがありますからね。海外文学のあとに日本文学を読めば、それはそれで面白いと思いますし。

ぜひ、海外文学に興味を持った方は読んでみてください!買うと結構高いので、図書館借りて読むのがオススメですよ(笑)